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シリーズ⑳ 北神なす

神戸市北区の有野町・大沢町・長尾町・八多町・道場町・淡河町を中心に、昭和10年頃からなすの栽培が行われています。ここで生産されたなすは「北神なす」と呼ばれています。
六甲山系からのきれいな水と肥沃な土地、昼夜の寒暖差が大きい気候など、恵まれた自然環境の中で栽培されています。
北神なすの出荷は7月上旬~10月下旬頃で、最盛期は8月~9月です。今が一番おいしい時期です。
今回は有野町にある北神なすの圃場(ほじょう)に伺いました。

ツヤツヤが◎
栽培しているのは「千両2号」という品種です。皮が柔らかくクセがないので食べやすく、調理しやすいので一番人気の品種です。
良いなすは表面がツヤツヤで、濃い黒紫色をしています。太陽をいっぱい浴びて、水をたくさん含んでいるので、皮に張りがあり、生き生きしています。
ちなみに、原産地が中央アジアやインドなので暑さに強く、水が大好きなので、水が不足するとツヤがないなすや皮も実もものすごく固いなすが増えてしまいます。1本の枝になる実でも生育状態は様々で、水をうまく取り込める実と取り込めない実があります。なすにとって水はとても重要です。
有野町は六甲山系の有野川から直接水を引いているので水不足で枯れることはほとんどないそうです。

無限収穫?!
なすは何回も収穫ができるそうです。①葉が出る、②花が咲く、③実がなる、①葉が出る、②花が咲く、③実がなる・・・を繰り返しながら成長していくので、取材に訪れた時は腰ぐらいの高さでしたが、どんどん成長して、最終的には大人の背丈ぐらいまで伸びるそうです。面白いことに、成長していくときは必ず葉が2枚ついて、花が咲くそうです。葉のところから芽が出るので、この芽を伸ばせば花が咲き、また葉が2枚できてを繰り返すので、上手に育てれば無限に収穫できるそうです。
夏は成長が早いので、夜のうちに1、2cmも伸びます。2日に一度は収穫ができ、初霜が降りる11月まで収穫が可能。ただ、寒くなってくると成長が遅くなり、実も固くなってきます。なすの枝の先っぽ(成長点)が霜に当たると枯れてしまいます。

自分で作って、自分で売りたい。
今回お話を伺ったのは、神戸北茄子生産部会の部会長をされている山根康史さん。
サラリーマンから農家になって9年、本業はいちご栽培で、北神なすは4年目だそうです。
なぜ農業を始めようと思ったのかお聞きしたところ、「自分で作って、自分で売りたかった。」とのお返事。サラリーマンのときは仕事をしていてもお客さんの顔が見えにくく、自分のやっていることが果たして喜ばれているのか、役に立っているのかわからないと思われたそう。それで、自分で作ったものを直接お客さんの顔を見て売りたい、するならいちごを作りたい!と二郎(有野町)での就農を選んだそうです。
それではなぜ途中から北神なすの栽培も始めたのかお聞きしたところ、きっかけは友達が元 茄子生産部会の部会長で、「やってみいひんか」と言われたからとか。本業のいちごが春までなので、その後の夏から秋にできる野菜としてなすの栽培を始められたそうです。
いちごが本業なので、北神なすの栽培面積は3a(3アール、テニスコート1面半ぐらい)で小さめですが、その分手間ひまかけて育てられており、収穫量は1,255kg(令和3年)ありました。

神戸北茄子生産部会
現在部会の会員は10名。部会の栽培面積は全部で48a(48アール)で、収穫量は15,790kg(令和3年)です。
部会では「圃場巡回」や「目慣らし会(めならしかい)」等を行っています。

「圃場巡回(ほじょうじゅんかい)」
みんなで畑を見回ります。なかなか人の畑を見ることがないので貴重な時間です。部会で同じ品種、同じ苗で栽培していても、人によって違ってきます。成長具合や仕立て方も違うので、いろんな圃場を見て情報交換やノウハウを共有し、みんなで様々な意見を出し合いながらスキルアップをしていくそうです。

「北神なす立毛共進会(たちげきょうしんかい)」
立毛(たちげ)とは、作物を収穫する前の状態のことをいい、立毛共進会とは収穫後の作物を審査するのではなく、栽培されている状態の作物を審査します。
これは他の野菜や花などでも行われている審査会ですが、兵庫県神戸農業改良普及センター、JA兵庫六甲、神戸市中央卸売市場、神戸市経済観光局の方々と生産者(部会員)を審査員とし、圃場での栽培管理の状況や技術、出荷実績などを元に審査し、特選や優秀賞を決めます。
山根さんは「作っている人からすると励みになる。」とおっしゃっていました。山根さんも以前、優秀賞を受賞されています。

※1 秀品・優品・良品・外品の4つの規格があり、それぞれMから3Lまでの大きさに分かれます。規格は傷(あるかないか、あれば多さ)・形(まっすぐか曲がっているか、曲がっている度合い)・色(濃さやツヤ)を見て決めます。

「目慣らし会(めならしかい)」
出荷の規格や出荷時の注意点などを確認し合う会です。
例えば同じなすでも、Aさんは秀品※1と判断しても、Bさんは優品と判断するというふうに、個人によって基準がバラバラだと出荷する際に品質にばらつきがでます。そこでみんなで集まって、みんなのものさしを統一する作業が目慣らし会です。
圃場の取材の後、目慣らし会にも参加させていただきました。
時間になると、部会員の方、JA兵庫六甲や兵庫県神戸農業改良普及センターの職員の方など、20名ぐらいの方が集まってきました。
出荷するために段ボールに梱包した北神なすを、生産者の方が次々運んできます。この時点では個選(個人で選別)なので、箱を開け、今度はみんなで基準を確認します。
ここでの外品が他の産地では秀品だったりしますが、市場は正しく判断されるので品質に見合った値段をつけてくれるそうです。北神なすは基準がとても厳しいので、信頼度はとても高いです。
実際に外品を見せていただきましたが、とてもきれいで私たちの目では外品には思えません。「これが外品?」とびっくりしました。

子どもたちへ一言
「子どもは国の宝ですからね。日本の未来を背負っているんで、好き嫌いなしに食べてほしい。でも、結構子どもはナス科って嫌いな子が多い。トマトでしょ、ピーマンでしょ、なす。なすは皮にアントシアニンがある。ナスニン※2は、抗酸化作用があって目にもいいからね。そして特にいいのは夏に食べること。カリウムを含んでるから利尿作用があり体を冷やしてくれる。夏バテにはカリウムを取るのがいい。なすは90%が水なんで、栄養があまりないと思われているが、食物繊維がたくさん含まれているので整腸作用がある。」とおっしゃっていました。
子どもたちがおいしく食べやすい調理方法はありますかとお聞きしたところ、
「なすは油と相性がいいので、煮びたしもさっと油で炒めてから麺つゆで食べるとおいしいし、量も食べられるから、暑さで食欲がなくても食べやすい。ポイントは皮をむかずに一緒に食べる。夏野菜は夏バテに効くようになっているからね。子どもたちには地場産のいいものを食べさせたい。」とのことでした。
※2 ナスニン:アントシアニン(色素の一種)だが、なすから抽出したものはナスニンと呼ばれる。皮の色素成分でポリフェノールの一種。抗酸化作用があり、動脈硬化や老化の予防をはじめ、目や肝臓の働きを活性化する効果もあるとされています。

最後に「農業が大好きなので、畑で命がつきても本望やなー。」とニコニコしながらおっしゃっていました。山根さんにとって農業は天職なんですね。
9月の献立で「とうふのカレー」になすが使われますので、生産者の方々を思いながら食べてくださいね。

 
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